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福岡地方裁判所 昭和60年(ワ)470号 判決 1985年7月29日

原告 福岡県信用保証協会

右代表者理事 永井浤輔

右訴訟代理人弁護士 廣瀬達男

被告 三上小一郎

主文

一  被告は原告に対し金四五五万九二八〇円及び内金一七九万八五二五円に対する昭和六〇年一月三一日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一申立

1  請求の趣旨

主文同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

1  請求の原因

一  訴外株式会社九州産業通信社(以下「訴外会社」という。)は、訴外株式会社福岡銀行(以下「訴外銀行」という。)から後記四のとおり金員を借り受けるに先立ち、原告に対し保証委託の申込をしたので、原告はこれを承諾し、昭和四九年七月二四日、訴外会社との間で、原告が訴外会社に代って借受金債務の弁済をしたときは、訴外会社は原告に対し右弁済金及びこれに対する年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払うことを内容とする信用保証委託契約をした。

二  被告は、昭和四九年七月二四日、原告に対し、訴外会社が右信用保証委託契約により原告に対し負担することのあるべき債務につき、連帯保証する旨約した。

三  原告は、昭和四九年七月二四日、訴外銀行に対し、訴外会社が後記四のとおり借り受ける三〇〇万円の貸受金債務について、連帯保証することを約した。

四  訴外会社は、昭和四九年七月三一日、訴外銀行から三〇〇万円を次の約定で借り受けた。

(一) 利息 年利九・二五パーセント

(二) 利息支払方法 期間内前払

(三) 元金の支払方法 昭和四九年八月から昭和五〇年一月まで毎月末日限り五〇万円宛支払(但し昭和五〇年一月は三〇日限り)

(四) 期限の利益喪失 分割金の支払一回不払

五  訴外会社は、訴外銀行に対し、前記四の借受金につき、内金一〇三万六五四四円と昭和四九年一一月一五日までの利息を支払ったのみで、その余の支払をしない。

六  原告は、昭和五〇年二月二五日、訴外銀行に対し、訴外会社に代って、次の合計二〇〇万九七三一円を支払った。

(一) 元金 一九六万三四五六円

(二) 利息 四万六二七五円

貸金一九六万三四五六円に対する昭和四九年一一月一六日から昭和五〇年一一月一六日までの年九・二五パーセントの割合による利息

七  右信用保証契約上の訴外会社の債務についての連帯保証人の一人である訴外矢幡寛は、原告が右代位弁済により訴外会社に対して有するに至った二〇〇万九七三一円の求償金元本につき、別紙計算書のとおり合計二一万一二〇六円を支払った。

八  よって、原告は被告に対し右求償金残元金一七九万八五二五円及び別紙計算書のとおり求償金各残金に対する代位弁済の日である昭和五〇年二月二五日から昭和六〇年一月三〇日までの年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金二七六万〇七五五円の合計四五五万九二八〇円並びに内求償金残元金一七九万八五二五円に対する昭和六〇年一月三一日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因の認否

一  請求の原因一の事実は不知。

二  同二の事実は認める。

三  同三ないし七の事実は不知。

3  抗弁

原告が、商人である訴外会社の委任に基づいて成立した保証債務を履行して取得する求償権は、商法五二二条の商事債権として五年の短期消滅時効にかかる。原告の本訴提起のときは、既に本件代位弁済による求償権の発生から五年を経過しているから、被告の連帯保証債務も時効により消滅した。

4  抗弁の認否

争う

5  再抗弁

原告の被告に対する本訴提起は、代位弁済による求償権発生の日から五年を経過しているが、原告は信用保証委託契約上の訴外会社の連帯保証人である矢幡寛に対して、昭和五五年二月二二日支払命令の申立をし、同月二八日支払命令が発せられ、同年三月二八日仮執行宣言が付され、右仮執行宣言付支払命令は同年四月中旬頃確定した。

従って、原告の被告に対する本件求償権の時効は中断している。

6  再抗弁の認否

原告は、信用保証委託契約の主債務者である訴外会社に対して、時効中断の措置をとっておらず、右契約についての連帯保証人の一人である矢幡寛に対する請求によっては、他の連帯保証人である被告に対する時効中断の効力を生じない。

また、右仮執行宣言付支払命令の確定の日から商法五二二条に定める五年の短期消滅時効を経過しているので、原告の本件求償権は、時効により消滅している。

さらに、訴外会社は既に法人格が消滅しているので、連帯保証人である矢幡寛に対する請求によっては、主たる債務についての時効中断を問題にする余地はない。従って、主たる債務の時効による消滅によって、被告の保証債務も消滅した。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によると、請求の原因一、三、四、五、六の各事実が認められる。

請求の原因二の事実は当事者間に争いがない。同七の事国は原告において自陳するところである。

二  そこで消滅時効の点について判断する。

(一)  右事実によると、原告は訴外会社が訴外銀行から借り受けた金銭消費貸借の債務について、被告及び矢幡寛らが連帯保証人となり、訴外会社の委任に基づいて、原告は訴外銀行に対し、右債務の信用保証をし、かつ、その保証債務を履行して、本件求償権を取得したものである。

右事実によると、原告は商人の性質を有しないが、本件信用保証は商人である主債務者訴外会社の委託に基づくのであるから、保証人自身は商人でなくても、その保証委託行為が主債務者の営業のためにするものと推定される結果、保証委託契約の当事者双方に商法の規定が適用されることになる。そして、本件求償権が原告において信用保証委託契約の履行として、保証人である立場において、主債務者に代って弁済したことによって発生すること及び商法五二二条の「商行為に因りて生じたる債権」とは迅速結了を尊重する商取引の要請によるものであることを勘案すると、商人でない原告のした弁済行為自体は商行為にあたらないとしても、本件求償権は、結局、商法五二二条のいわゆる商事債権として五年の短期消滅時効の適用を受けるものと解するのが相当である。

そして、昭和五〇年二月二五日の原告の代位弁済による求償権取得の日から、記録により明らかな昭和六〇年三月一三日の本訴提起の日まで右五年の消滅時効期間を経過していることが明らかである。

(二)  弁論の全趣旨によると、原告は、信用保証委託契約上の訴外会社の連帯保証人の一人である矢幡寛を相手方として、昭和五五年二月二二日福岡簡易裁判所に対し支払命令の申立をし、同裁判所は同年二月二八日支払命令を発し、同年三月二八日これに仮執行宣言を付し、右仮執行宣言付支払命令は同年四月中旬頃確定したことが認められる。

ところで、複数の連帯保証人が存する場合であっても、連帯保証人の一人に対し、支払命令の申立による請求がなされても、それは他の連帯保証人に原則として効果を及ぼすものではないと解するのが相当であるが、商法五一一条二項が適用される場合には各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係を生じると解するのが相当であるから、この場合には民法四三四条の準用により、連帯保証人の一人に対する支払命令の申立による請求は、他の連帯保証人に対しても請求がなされたと同一の効果を生じ、この結果、他の連帯保証人に対する消滅時効の進行を中断するものと解するのが相当である。そして、前示の本件求償権の発生に関する性質及び商法五一一条二項の「主たる債務者の商行為に因りて生じたるとき」とは商人の営業債務に関する責任を厳格化してその信用を重視する商取引の要請によるものであることを勘案すると、信用保証委託契約上の連帯保証人相互間にも商法五一一条二項を適用し、連帯債務ないしこれに準ずる法律関係を生じると解するのが相当である。

従って、被告に対する本件求償権は、矢幡寛に対する支払命令の申立による請求によって、短期消滅時効の進行を中断し、仮執行宣言付支払命令の確定の日から再び進行を開始することになる消滅時効については、民法一七四条の二に定める一〇年の消滅時効期間内に、本訴が提起されるに至っているものである。

(三)  被告は、信用保証委託契約上の主債務の消滅時効及び主債務者の法人格の消滅にともなって、被告の本件保証債務も付従性により消滅した旨主張するが、民法四五八条、四三四条の適用又は商法五一一条二項、民法四三四条の適用により、連帯保証人である矢幡寛に対する前示時効中断の措置により主債務についても消滅時効の効力が生じないことが明らかであるから、主債務の消滅時効を理由とする本件求償権の消滅の主張は理由がないし、後者の主張はそれ自体理由がない。

(四)  結局、本件求償権の消滅に関する被告の主張は、いずれも理由がない。

三  してみると、原告の本訴請求は、全部理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判官 宮良允通)

<以下省略>

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